経済産業省 J-Startup認定事業
「政府案 出産費⽤(正常分娩)の保険適⽤の導⼊」に関するアンケート 報告
2023/7/26
分娩施設の予約プラットフォームを開発運営するスペシャリスト・ドクターズ株式会社は、出産費⽤の保険適⽤の導⼊が、産科の経営に大きな影響を与える可能性があることから、実態を把握するため、「政府案 出産費⽤(正常分娩)の保険適⽤の導⼊」に関するアンケートを実施しました。
結果の概要
  • 79%の医療機関が出産費用(正常分娩)の保険適用について反対している(図1)
  • 91%の医療機関が出産費用(正常分娩)が保険適用された場合、収益が減ると答えており、そのうち67%の医療機関が赤字になると答えている(全体の67%)(図5)
  • 34%の医療機関が、出産費用(正常分娩)が保険適用された場合、分娩の中止を検討すると答えている(図10)
調査の概要
  • 調査対象者:全国の産科医療機関の経営者
  • 調査方法:web調査
  • 実施期間:2023年4月5日から5月28日
  • 有効回答数:90施設
  • (内訳)
    • ⼀次施設:85施設
    • 地域周産期⺟⼦医療センター:3施設
    • 総合周産期⺟⼦医療センター:2施設
■「出産費用(正常分娩)の保険適用に対する意見:反対が圧倒的ながら、賛成の声も約20%」(図1)
出産費用(正常分娩)の保険適用についてどのように感じましたか?の問いには、反対意見が圧倒的に多くを占めましたが、約20%の賛成の声もありました。
寄せられた意見からは、出産費用の保険適用による少子化対策について、医療現場は慎重な意見を示していることが分かりました。医療機関の経営困難や分娩施設の減少、負担増の可能性などが懸念されており、保険適用の具体的な効果や経営持続性について議論が必要との見方が示されました。政府と医療現場の対話が重要であり、包括的な政策立案による柔軟な対策や現場の実情を考慮した施策の検討が必要ではないかとの意見が寄せられました。(図2)。
正常分娩件数361〜520件/年の医療機関では、賛成・反対の意見が割れていました(図3)。
図1:出産費用(正常分娩)の保険適用について反対意見が圧倒的に多くを占め、約80%の先生が反対、一方で約20%の賛成の声もあがっている。
出産費用(正常分娩)の保険適用について反対意見が圧倒的に多くを占め、約80%の先生が反対、一方で約20%の賛成の声もあがっている。
● 保険適用の反対に関するドクターの声
  • 分娩費用を払えないから子供を産まないわけではなく、子供を産んだ後の教育費用や子供を預けられる環境が整わない事が1番の問題だと考えます。産婦人科医は地域貢献、強いては国のために24時間365日働いており、産婦人科医のモチベーションを減らす事は少子化対策に逆行する施作に思えます。
  • 保険点数が高ければ、経営は成り立つが、医療費削減の方向で、高点数がつく可能性は低く、最終的には経営難から分娩取扱施設が減り、少子化に拍車がかかる可能性が高いです。
  • 反対の声をあげても、保険適用はされるでしょう。運用方法についての工夫(自費加算や混合診療の許容)について議論を深めてほしい。
  • 正常分娩の保険適用=少子化対策となる根拠が不明確です。保険点数が、安いなら分娩取りやめ、高いなら分娩継続になるだろう。
  • 地域差を考慮しない、正常分娩の保険適用導入は、反対です。
  • お産を保険適用にするならば、婦人科の不当に低い手術等の保険点数などを全面的に見直すべきです。
図2:保険適用の反対に関するドクターの声
保険適用の反対に関するドクターの声
保険適用の反対に関するドクターの声
図3:年間分娩件数を参照すると、賛成反対の意見が最も割れたのは、正常分娩件数361〜520件/年の医療機関である。
年間分娩件数を参照すると、賛成反対の意見が最も割れたのは、正常分娩件数361〜520件/年の医療機関である。
■ 賛成・反対それぞれのご意見の背景(図4)
● 賛成
  • 一時金の増額と分娩費用値上げのイタチごっこに歯止めが効くのであれば、マイナスではないと思う
  • 決められたことをやるしかないし、経営へのダメージは特に影響は受けないと考えている
● 反対
  • 収益圧迫が予想され、これ以上産科全体を苦しめる施作は悪手である
  • 保険適応に関しては、どこまで保険収入になるのかが分かれ目だが、50万円を下回ればかなり多くの医療機関がなくなる
  • 具体的に内容が決まれば手を打っていくが、おそらく、保険と自費の混合になるので、自費の部分の金額を上げて収益確保するしかない
  • 診療報酬の中身についての議論が煮詰まっていないので、どちらのスタンスでもないが、決めることが多くやや実現性が低いのではと考えている
図4:賛成・反対それぞれのご意見の背景
賛成・反対それぞれのご意見の背景
■ 出産費用保険適用後の医療機関収益への影響:(図5,6,7)
出産費用(正常分娩)が保険適用された場合、医療機関の収益への影響については、90%以上の医療機関が収益が減ると回答しました。また、保険適用された場合の対策について最も多かった回答は、お祝い膳や妊婦さんの特典の廃止でした。また、無痛分娩を取り扱っている43の医療機関のうち9つが無痛分娩を取りやめると考えています。
図5:90%以上の医療機関が収益が減ると回答
90%以上の医療機関が収益が減ると回答
図6:保険適用の導入には反対で、実施されると収益が減ると79%が回答
保険適用の導入には反対で、実施されると収益が減ると79%が回答
図7:お祝い膳や妊婦さんの特典をとりやめるが最も多く、人件費を削減するが2番目に多い結果になった
お祝い膳や妊婦さんの特典をとりやめるが最も多く、人件費を削減するが2番目に多い結果になった
図8:無痛分娩取扱施設43のうち9医療機関が無痛分娩をとりやめると回答
無痛分娩取扱施設43のうち9医療機関が無痛分娩をとりやめると回答
● 産科運営の継続に関するドクターの声
  • 真面目に医療をしていて無痛分娩に取り組んでいる施設は、麻酔科を24時間365日確保していますが、保険診療では彼らの給与を賄うことが出来ない。結局、無痛分娩ができるのは、他の手術がある大きな病院になり、クリニックでの経営維持は難しいと考えています。
  • 混合診療を認めるならば保険診療化は良いが、当院はたくさんの助産師を雇用し、育てています。そのように安全な分娩をめざして日々努力しているが、保険診療になれば、雇用の維持を出来ない可能性が大となります。
図9:産科運営の継続に関するドクターの声
産科運営の継続に関するドクターの声
■「医療機関の決断:出産費用(正常分娩)保険適用により医療崩壊の危機が浮上し、分娩中止が検討される現状」(図10,11)
出産費用(正常分娩)が保険適用された場合、その後も分娩を継続されますか?に対し、約4割の医療機関が分娩取扱中止を視野に入れていると答え、保険適用の内容によるが辞めるかを検討している医療機関が17%もあります。
内訳としては、分娩件数の多寡に限らず、分娩をとりやめる医療機関が増えてきております。
もともと分娩を休止することを考えていたのは、年間分娩件数1〜200件の医療機関でしたが、年間分娩件数681件の医療機関でもやめる事を検討しているというような事が、今回の施作のインパクトの大きさだと考えております。
図10:出産費用(正常分娩)が保険適用された場合、3割以上の医療機関が分娩取扱中止を検討
出産費用(正常分娩)が保険適用された場合、3割以上の医療機関が分娩取扱中止を検討
図11:年間分娩件数361件以上の医療機関は、半数以上が分娩を継続すると回答
年間分娩件数361件以上の医療機関は、半数以上が分娩を継続すると回答
スペシャリスト・ドクターズ株式会社の概要
  • 会社名:スペシャリスト・ドクターズ株式会社 (英語名:Specialist Doctors Inc.)
  • 代表者:代表取締役 塩飽 哲生
  • 本社所在地:〒105-0004 東京都港区新橋1-12-9 新橋プレイス6F
  • 設立: 2011年(平成23年)7月7日
  • 業務内容 : 医療 IT サービス、病院・医療関連企業のコンサルティング
革新的な技術やビジネスモデルで世界に新しい価値を提供するスタートアップを育成支援するプログラム「J-Startup」に経済産業省より認定された企業です
※本調査結果引用時のお願い
本調査結果の引用時には、以下のご対応をお願い申し上げます。
〔出典元〕
  • 調査名:政府案 出産費用(正常分娩)の保険適用の導入に関するアンケートご協力のお願い
  • 調査対象者:全国の産科医療機関の経営者
  • 調査方法:web調査
  • 実施期間:2023年4月5日から5月28日
  • 有効回答数:90施設
  • 調査主体:スペシャリスト・ドクターズ株式会社 (https://www.specialist-doctor.com/)
  • 調査結果の詳細:https://www.specialist-doctor.com/child_birth/news/20230726001